1.はじめに
予防と健康の授業中に見たビデオから二つのキーワードを選択し、それに関する論文からレポート作成をおこなった。一回目はストレスとうつ病に関するビデオを見、二回目はアスベスト問題に関するビデオをみた。アスベストに関するビデオでも、国が問題を先送りにしたことから生じた弊害に学ぶことがあった。しかし今回は、最近増加しているうつ病やストレスに関して調べてみた。
2、 選んだキーワード
選んだキーワードは「mental health(精神的健康)」と「cortisol(コルチゾール)」である。
心理と化学物質との関係に興味があったためこのキーワードを選択した。
3. 論文の内容の概略
精神的健康、コルチゾールの2つのキーワードから、仕事のストレスと日周期の唾液コルチゾールの関係を研究した論文を読んだ。血清コルチゾールは広く認められたエネルギー動員の指標であり、それゆえストレスに関する有益な指標となる。
これまでの研究では、仕事の重圧と血液、あるいは唾液コルチゾール濃度との関係は薄く、限られた職業においてのみ見られていた。この論文は、その関係について詳しく調査しているものであった。
方法はまずストックホルムにおいて529人に8500以上の主題に基づいたアンケートが3年間隔で2回実行された。1回目のアンケートは、20歳から64歳のストックホルムの住民19742人にランダムに送られ、データ収集は1998年から2000年に行われた。アンケートは、精神障害の潜在的危険因子だけでなく、幸福、鬱や他の症状を測るための指標に関する質問も含まれた。記録によると被験者よりも非被験者に精神的障害者が多く見られたが、危険指標と精神障害の関係は被験者と非被験者の間で類似していたため研究は続けられた。
2001年から2003年にかけて基本的に同じ質問が1回目の回答者に再度送られた。このうち881人には精神的症状と生活状況に関しての面接が行われ、444人はWHOの幸福指標の得点10点よりも低く、437人は10点と幸福度が高かったため選別され、同様に面接が行われた。最終的に、アンケート返却後8週間以内に被験者の80%に対し、面接が行われた。精神症状にかかわる面接を受ける被験者は平日(火曜日、水曜日、木曜日、金曜日)起きて30分後、昼食時、の就寝前、3回唾液サンプルを集められ、アンケートとの関係を調べた。被験者、研究者の支障を除くと最終的に使えるサンプルは529個(女性 181人、男性 181人)となった。
アンケートの結果から被験者は4つのグループに分類された。分類時の質問は、仕事における精神的抑圧に関しては5つ、仕事に関する決定権においては6つであった。仕事における精神的抑圧に関しては例えば、あたなは締め切りが差し迫った仕事を課せられますか。というような質問で、仕事に関する決定権は、例えばあなたは仕事内容に関して影響を与えられますか。や、あなたの仕事は単調ですかと言うような質問だ。すべての質問は4段階で回答され結果の平均に基づいて4つのグループに被験者は分類された。「重圧が低い」グループは仕事における精神的抑圧が平均以下で自己決定権は平均以上という、あまりストレスを感じないグループと定義された。「受動的」なグループは精神的抑圧と決定権の両方とも平均以下、「能動的」グループは精神的抑圧と決定権両方が平均以上のグループとされた。そして最後に「重圧が高い」グループは精神的抑圧が平均以上で決定権は平均以下という一番ストレスを感じるグループと定義された。
2回目のアンケート収集の際に、年齢、喫煙、肥満、アルコール消費量、鬱、幸福感、勤務時間、辛い出来事などは仕事におけるストレスと唾液コルチゾール濃度に関係する因子として分析されたが結果には全く影響を及ぼさなかった。
ストレスが少ない仕事についている女性(低い支配と高い決定権)はストレスをともなっている女性よりも起きて30分後のコルチゾール量は約3n?低という結果が得られた。その他の時間においては著しい違いは見られなかった。また男性においてこの違いはみられなかった。
したがってまとめると以下のようになる。この調査は唾液コルチゾール濃度の日周期変化を、実際にストックホルムという比較的大きな母集団で働いている人々のサンプルを代表にして行われた。研究の企画では薬物、精神状態、体格、喫煙、アルコール消費量のような多数の潜在的困惑因子の調整を可能とするものであったが今回の調査結果に影響を及ぼすものはなかった。結果は仕事において精神的抑圧が低く、自由に仕事をしている女性は、翌日起床30分後の唾液コルチゾール濃度がストレスを伴う仕事に就いている女性よりも低いことを示すものとなった。この関係は男性では見られなく、他の「受動的」、「能動的」、「重圧が高い」の3つのグループに置ける違いも見られなかった。つまり今回の調査は、要求と支配によるストレスは唾液コルチゾール濃度と関係しうるという仮説をわずかに支持する結論に至ったことになる。
4.論文の内容とビデオの内容から将来医師になる目で捉えた考察
ストレスを感じると、コルチゾールが副腎皮質から分泌され、これは体を防御するために働く。ストレスは本来体の防御システムなのだ。例えば、草食動物のシマウマは常にコルチゾールを少し分泌しており肉食動物のライオンが近づいてきたとき即座に逃げることができるようにしている。これはストレス反応におけるコルチゾールの作用が、血圧上昇、血糖上昇、心収縮力の上昇、心拍出量の上昇などであるからだ。
しかしこの働きとは裏腹に現在の社会においては、過度のストレスのために悩まされている人々が多く存在している。仕事ではスピードや成果が求められ、期待に副えなければリストラされてしまう。リストラによって人が削減されると、一人当たりの負担は大きくなり責任を感じるようになる。リストラによって過重労働にもなる。企業合併による仕事の方針の変化に伴うストレス、働いても使い捨てられるのではというストレスなど多くのストレスを感じ、最終的にうつ状態になってしまう人もいる。本来ならプラスの働きをするものが時代や社会によってマイナスの働きにもなりうるのだ。これは血糖値に関するホルモン数にも言える。もともと生物は飢餓状態にいた時期が長かったため血糖値上昇ホルモンは多数存在するが、下降ホルモンはインスリンの一種類しかないという事実だ。飽食の日本で、糖尿病が社会問題となっている現在では血糖値を減少させるホルモンが必要となっている。
これらの社会的原因による病気は社会全体で解決していく必要があると考える。鬱状態になると、お金を出すから退職届を出せという企業もあるが、弱者を排除するのではなく、保護し成長させることのできるシステムをつくることが大切だ。それぞれの企業が責任を持ち社員の健康管理等を徹底する必要がある。例えば3ヶ月に一回、自己状態チェックをする、仕事における不安、不満等を皆で話し合う時間を作るなどがあげられる。
医師になるにあたって、このように、社会により本来ならプラスの働きをするものがマイナスの働きにもなりうることにいち早く気づき、解決していく手助けをしていく必要があると気づかされた。そのためにも、医師として現在社会で必要とされていることは何か、常に考えていく必要がある。社会は個人から成るため、これは一人の個人が必要としていることを汲み取る力にも結びつくと考えた。そして相手の立場に立つことの重要性、患者中心の医療をすることの重要性を再認識することとなった。患者中心の医療をし、その延長線上に患者を集団としての社会で見たときその時代で必要とされていることに気づくことができると考える。社会が必要としていることに気づくためにも患者中心の医療は大切なのだ。
現在、20代から40代における死亡原因第1位は自殺である。いじめ、リストラなどの原因で悩んでいる多くの人の自殺を食い止めるために、精神障害や鬱を予防していくことも重要である。
ストレスには慢性と、急性ストレスがある。コルチゾールの分泌はカテコラミンの刺激でさらに高まるという、正のフィードバックの関係もあり、急性のストレス反応時にはその相互作用で一気に反応が見られる。ストレス刺激が慢性化した場合は、コルチゾールの慢性的な影響がストレス反応、つまり血圧上昇、血糖上昇、心収縮力の上昇、心拍出量の上昇などに大きく反映するようになり、精神、免疫、内分泌への複雑な情報ネットワークに影響して、ストレス反応を多様なものにする。病気はこの慢性ストレス時に見られる。ビデオにあったように白血球の遺伝子が、慢性と急性ストレスで変化するため慢性ストレスを発見でき予防することも可能になったのだ。予防は遺伝子レベルだけでなく前に記したように、それぞれの個人が集団のなかで問題に気づき合い、解決していくことでも可能である。医師になるにあたり、個人の変化に気づき、先端医療を駆使して社会全体の問題を解決していく力となることの必要性を認識した。
心理が化学物質に関係していることも再認識した。医者はデータしか見ないといわれるが、データからの精神的サポートもやはり必要なのだ。
5.まとめ
「mental health(精神的健康)」と「cortisol(コルチゾール)」という二つのキーワードから仕事におけるストレスと唾液コルチゾールの関係論文を読んだ。論文からはストレスに伴うコルチゾール分泌を確認することができた。またビデオの内容と論文から、将来医師になるために相手の立場になって物事を考える大切さ、そこから集団、社会で必要とされていることを汲み取る必要性を学んだ。また、現在の社会における予防医療の大切さや自分が医師としてどう関わっていくかということについて考えさせられた。